「森林の公益的機能」。林学履修者や林業に携わる者にとっては馴染み深い用語であり、それ以外の人々にとっても、イメージとして常に持ち合わせている感覚だろう。
「森林の有する多面的機能」は林野庁資料にあったので拝借する(下表)。
「『物質生産機能』は最後? 『燃料材』を『建築材』の上に置く?」 などと仕事がら疑問を感じるところもあるがそれはさておき、森林には実にこれだけ多くの機能があるとされている。それぞれの機能の定量化や森林のゾーニングがいかに大変な作業であるかは言わずもがなだ。さらに、日本の場合は歴史的にも古くから木や森と深く関わってきた国民性もあり、例えば「里山」といった言葉から思い描かれる類の、無形の精神的愛着対象としての要素もあるのではないか。
この点、ニュージーランドは極めて対象的だ。ニュージーランドの国土に占める天然林の割合は29%、人工林は6%。そして、ニュージーランド林業とは100%人工林施業であり、人工林はすべて木材生産林・投資対象であるといって過言ではない(細かい例外はここでは除く)。もちろん人工林であっても様々な多面的機能を発揮しているわけだが、木材生産とその収益最大化が最終最大目的であることに変わりはない。一方で天然林は完全に保護され、「物質生産機能」以外の機能を一手に引き受けているとも言える。
所有形態・行政管轄でいうと、人工林は1980~1990年代に民営化され、林業は国の主要産業のひとつとして第一次産業省下に置かれている。他方で天然林は国有のままであり、人工林の民営化と時を同じくして新設された環境保護庁が管理している。すなわち、ニュージーランドでは「林業」と「公益的機能」は分けて考え得る。「林業」は完全民営化され第一次産業省管轄下に、「公益的機能」は別の独立行政機関である環境保護庁が一元管理している。
したがって、ニュージーランドでは前稿で述べた「林業とは木材を生産して収益を最大化すること。」というシンプルな定義が、別段にその「公益的機能」を織り込むことなく成立しやすい。
<まだ続く>
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