[154] 東京のカレー

初めて東京に行ったのは大学受験の時。

前日入りし、大学近くのホテルにチェックインを済ませたあと、当時東京に住んでいた従姉妹が原宿に連れて行ってくれた。カバンには最終チェック用の参考書が入っていたが、結局暗くなるまで歩き回り、疲れ、誘われるままに晩ご飯もご馳走になった。食べたのはこれも人生初の本格インドカレー。原宿でも人気の店だよ、と彼女が自慢げに、だけど様にならない標準語で言った。「ナン食べる?」と聞かれ「何食べる?」かと思った。今でこそ専門店も珍しくないが、当時は家の薄いルーカレーしか食べたことがなく、感動するほど美味しかった。その夜は初体験の東京とインドスパイスのせいか、ほとんど眠れずに翌朝の受験日を迎えた。今思うと、ビジネスホテルの小さな天井、なんてのも初めての経験だったと思う。

受験を終えた日の夜、東京駅から寝台特急「あさかぜ」で帰路についた。まだ高校の卒業式も控える身だったけれど、車内の自動販売機でビールを買い、窮屈な寝台に座り、名も知らない街の灯りや、まだ見ぬ未来のかたちに目をこらした。翌朝、地元の駅に降りた。公衆電話から「東京のカレーは違うっちゃ!」と伝えた。プラットホームでしばらく宙ぶらりんな時間を潰した。北口の無機質な風景と南口の雑多な街頭を見比べた。まだ短い羽根をパタパタさせて、どちらの改札に向かえばいいのか決めかねていた。すべてはお前次第だと、たぶんその時はじめて知った。

0419Photo by MK Products, www.commons.wikimedia.org


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